昨日の話である。牛丼屋に入った。16:00くらいなのにやたらとカウンターがいっぱいでびっくりした。こんなにも同じ穴の狢は沢山いるのね、と、席に腰かけて注文を待っているとき、隣の客のスマホの画面がふと目に入る。旧Twitterのアプリ画面らしきところに赤い色をした💢の絵文字が打ち込まれていた。レスバ中なのかもしれない。目の前の牛丼は彼のストレスを軽減するに役不足だったか。
改札ですれ違った高校生は朝から疲れた面持ちをしていた。その理由を考えてみる。
・今日は日曜日だというのに、模試のために学校へ行かなきゃならない。もう受験も見えてくる頃。準備をしてもし足りず昨晩も遅くまで机にへばりついていたせいで寝不足だ、うぅ……、という顔。
・今日は部活。じきに人前での発表が控えているので休むわけにはいかないが、先週別れたあのやろうと顔を会わせるのが気まずい。まったくいつになったら楽になるんだか。やっぱり部内恋愛なんてするもんじゃなかったぜ、という顔。
・今日は朝から寝坊するわ、唇を噛むわ、定期を忘れて走ってとりに帰るわで散々だ。まだ朝だと言うのにこんな調子じゃ一日思いやられる。これ以上のポカは勘弁してほしい、という顔。
物語化するとしたらどれに面白味があるだろうか。
改札を抜けて電車に走り込むスーツ姿の青年と、すっと閉まるドア。いいリズムが流れていた。
化粧をキメて、airpodsを耳に指したきれいな青年が,マクドナルドの窓際でスマホに目を落としていた。何を食べているんだろうか。エビフィレオかなと想像してみた。それはただたんに私が食べたいだけなのか、そうでないのか。
出勤途中の道路で「カタン」という音が聞こえた。それなりに大きい音であった。そして低いというよりは高く、少しくぐもっていた。質量は大きそうだ。物を落とすというよりも、道路のマンホールを剥がし、ずらし、置いたときのような地面からの距離の近さを感じた。金属のような甲高さはなく、コンクリートのような鈍さがあった。あれはなんだったのだろうか。
バイトのシフトを引き継ぐ。前の担当者はお手洗いに行った。事務所には私しかいない。机に目をやると、先の同僚はロック解除されたPhoneを無防備に放置していた。私がとんでもない悪人だったらえらいことになるのではないか。個人情報を抜き取ったり、悪意のあるプログラムを侵入させたりしてしまうのではないか。私には技術がないので、想像できることはせいぜいYoutubeの閲覧履歴を見てほくそ笑むくらいの小さな悪行しかない。まあ職場にそんな緊張が走ってるのも嫌な話だし、お互いへの信頼があるってことだよなあなどと思っていたら、件の人は用を済ませて戻って来られた。離席する時には画面をロックしよう。そう思った。
野菜ジュースのパックを持ち上げた。飲み干したと思っていたそれには思いの外飲み残しがあって、その重さに驚いて体勢を少し崩した。流石に転倒するような馬鹿馬鹿しいことにはならなかったが、たかだか数10g程度の違いに振り回されたことがおかしかった。
1日に摂取できる活字量の上限を超えたのか、17:30を過ぎて以降ぱたっと本を開きたくなってしまった。と思ってしばらくしていたらぼんやりTwitterを眺めてた。自分、まだやれますということなのか。そっとスマホの画面を閉じた。
財布の中には118円。職場の自動販売機で売られている商品の最低価格は120円。選ぶ権利すら私にはない。悲しい話だ。