241030 : 酩酊

日記

別に追いビールなんていらなかったのに、あたしはシラフでいたくなかった。車でどこかに行きたいって言った友人の車に乗せてもらった。べつに理由なんてなかった。あたしは今、酔いながら文章を書いてる。後部座席で友人の運転に身を任せて文章を書いてる。前に乗せてもらったときよりも上手だななんて偉そうに思いながら、ときどき急停車のGを感じながら。

出発する前、あたしは友人に二分待ってほしいと言って、吐瀉物を受け止めるための袋を手に取った。彼の待つ車に行く前に、ムカムカしている胃のなかのものを吐き出そうとトイレで少しうずくまった。でも、なにも出てこなくて、あたしはただえずいただけだった。きっと吐かないことを祈って、あたしは彼のもとに向かった。

別に行く先なんてないと、ただ運転できればいいとだけ彼は言った。あたしは車の免許を取っていなくて、足と自転車以外の移動手段を持っていないから
彼のように技術を持っている一晩すごいなと思う。素直にそう思う。陳腐な響きを帯びているかもしれないけれど。

今は時速60km。あたしと彼が今どこにいるかなんて知らない。多分彼もあまり意識してない。それでいいと思うし、それがいいと思っている。だからこそ、あたしは免許を持っていなくてよかったとも思う。あたしが運転したくなるのはきっと、こんな酔いつぶれた夜だから。

すごい、もう滋賀に来てんだと、あたしはgoogle mapを見てそう言った。彼の運転への集中を邪魔したくなかったからずっと黙っていたけれど、素直に驚いてしまってそう言った。彼は「うん」とだけ言った。

どうでもいいんだ、あたしは。別に、どうでも。この酔っぱらいの頭のまま、ふにゃふにゃといられたらそれでいいんだ。刹那の、下らない心地よさのなかにずっと溺れていたい。この中で息ができなくなったらってずっとおもっている。

琵琶湖ってどこだっけと彼は私に問うた。あたしは、すぐ北だよって、確かそんなことを言った。あたしの口から出てる言葉なのに、やけに遠くから響いて聞こえた。彼は琵琶湖に行きたいみたいだった。いいじゃんって、ただそれだけを思った。