浮き沈み

作り話作曲創作

朝起きたら、私は不思議な性質を持った高校生になっていた。その性質とは、心が軽くなったら体が宙に浮かび、心が重くなったら体が地面に沈み込むというものだ。なんだか不便そうな体だなあと思ったが、私はこの性質を抱えたままに高校生までやってきているみたいだしなんとかなるだろうとベッドから足を下ろした。食事をとって、顔を洗って、荷物を用意して家を出る。登校中に誰に会うでもなく、地面を捉える足の感触に不自然さはなかった。

教室に入る。もうみんな来ていて良さそうな時刻だけれど、私が一番最初みたいだ。椅子に座り、教科書をしまおうとして机の中に手を入れると思いがけず膨らみのある紙に手が当たる。おかしいなと思って取り出してみると、それはなんと私宛ての手紙だった!おずおずと開いて読み進めると、それは私が思いを寄せている人からの私に対する恋文だったのだ!嬉しくて嬉しくて、天にも昇りそうだと思ったその時、太ももが机の裏にくっつくのを感じた。私は椅子から浮かび上がっていたのだ!でもその浮かび上がり方は思っていたよりもほのかなものだった。勢い余って机を倒し、天井に頭をぶつけたっていいと思っていた私の気持ちは椅子から10cm。わずかに机が傾くくらいだった。なーんだと思っているうちに、お尻には椅子の硬さが戻ってきた。

他のクラスにいる私の友人と一緒に帰った。友人に、意中のあの子から手紙をもらったんだよって地面から少し浮かび上がりながら話をしていたら、なんだか相手の機嫌を損ねてしまった。話を聞いていると、どうやら友人は恋愛がうまく行っていないみたいで、私の浮かれ具合が癇に障ったらしい。その子のぐちぐちとしたやつあたりのような態度に私はイラッときてしまい、日頃から気に食わないと思っていたその子の性質を指摘して喧嘩になってしまった。

その子は駆けて行ってしまったので、私は一人で帰ることになった。ムカムカとしていた気持ちはやがて、なんであんなことを言ってしまったんだという自責の気持ちになり、心はすっかり沈んでしまった。気がつけば私の足はコンクリートにめり込んでいて、泥の中にいるような歩きにくさがあった。でも正直にいえば、地面に体がすっぽりめり込んでもおかしくないくらいには落ち込んでいると思っていたので、私の気持ちの沈み込みなんて所詮こんなものなのかとシラけた。そう思っているうちに道路にヒビが入ることはなくなった。

という夢を見た。夢で良かったと思った。もしみんながそんな性質を持っていたなら、きっと私は一緒に喜んでいるときに相手の浮かび上がり具合を気にしてしまう。私よりも相手の方が地面と靴との距離が近いのを目にしたならば、私だけ浮かれてしまっているのかなあと不安になってしまう。夢で良かった。私は胸を撫で下ろした。