作り話 鍵 〇〇は鍵を拾った。それは不完全で古風な鍵だった。持ち手は三つ葉のクローバーのようで、差し込む部分には突起も何もなく、ただただ細い円柱形をしている。鍵というよりも細い金属の棒にささやかな持ち手がついている、といった方が正確かもしれない。〇〇に... 作り話創作
作り話 仮面 本を読んだ。人は向かい合う人によって少しずつ異なる演技をする。明るく快活な自分、優しく穏やかな自分、ねくらでしらけたな自分など、人はいくつもの仮面をつけたり外したりしながら生活している。そんなことが書かれている本だった。私には気になる人がい... 作り話作曲創作
作り話 浮き沈み 朝起きたら、私は不思議な性質を持った高校生になっていた。その性質とは、心が軽くなったら体が宙に浮かび、心が重くなったら体が地面に沈み込むというものだ。なんだか不便そうな体だなあと思ったが、私はこの性質を抱えたままに高校生までやってきているみ... 作り話作曲創作
作り話 魔法使い もう長らく忘れていたが、小学校に入る前の幼い頃、私は仲が良かった友だちと、二人の老人が住む家に足繁く通っていた。行くようになったきっかけは忘れてしまった。きっと道路でサッカーボールを蹴り合って遊んでいたときに、誤ってボールを庭に蹴り入れてし... 作り話創作
作り話 石と木箱 あまりにもすることがなかったので、家から少し離れたところにある大きな図書館に行くことにした。館内をふらふら歩きながら、遠い国の昔話でも読んで現実とは違う世界に思いを馳せてもいいかもしれないなという思いに至り、歴史なのか神話なのかよく分からな... 作り話作曲創作
作り話 梯子 こんな梯子がある。それは人と人とが約束事を交わすときに生まれる、地面から空に向かって垂直に伸びる梯子である。自分の手の先に待つ空間を見ようと上を見ても、靄がかかっていてよく見えない。しかし、自分より下の空間は透き通って明瞭に見えるので、これ... 作り話作曲創作
作り話 憐憫 私が親元を離れたのは大学生の時である。片田舎から上京する折に家を出て、そのままこちらで就職し、数年が経った。実家に顔を見せに行かなければと思う一方で、地元にいい思い出がなくて帰省を億劫がってしまう。根無し草のように、ふわふわと暮らすことので... 作り話作曲創作
作り話 未練 私は自室での時間を好む。自室においては、私以外の何者も私を眼差すことはない。その事実が私を解いてくれる。しかし、自室では安らぐ以外の何もできなくなる。糸が切れたように、ぼんやりと時間を過ごすこと以外には何もできなくなる。だから、何かしたいと... 作り話作曲創作
創作 『幽霊』 幽霊は執念を抱えたまま机を拭ってはその指先をじっと見つめている幽霊は解消されない思いの跡にじっと立っているいつか解放されたいと思っているのかそのままでいいと思っているのか本人にもわかっていない 創作詩