作り話 風船 伊織は実家に帰省し、自室の押し入れをごそごそと漁っていた。かつて引っ越したタイミングで段ボールにしまいこんだ以来、引っ張り出していなかった漫画を無性に読み返したくなったのだ。小中学生のときは漫画狂だったし、親戚からも読まなくなったものをたく... 作り話創作
作り話 憧れ 夜、駅の構内にある本屋で平積みにされていた文庫本を手に取って、樹は考えていた。どこかで耳にしたことのある作者名だと思うが、誰の口から聞いたものか思い出せない。樹は普段本を読まないので自分で知った名前だとは思えず、誰かが口にしていたと考えるの... 作り話創作
作り話 夜の凧揚げ 9月最終土曜の夕方、那月は隣町の100円ショップに来ていた。きっかけは先週、バイト先の同僚のひとりが、夏休みが終わってしまう前に川辺で花火でもしようと言ってきたことだった。那月もその同僚も出不精で人がたくさん集まる花火大会には行かずじまいだ... 作り話創作
作り話 沸騰 「ねぇ、話あるんだけど」旭はスマホの画面から顔を上げ、面倒くさそうに蓮を見た。嫌な目だ。蓮は一瞬喉をつまらせたが、息を吸い直して言葉を続けた。「また鞄買ったよね。貯めようってずっと言ってんのに、どういうつもりなわけ?」旭はわかりやすく大きな... 作り話創作
作り話 微熱 仕事も休憩時間になった。葵は椅子から立ち上がり、自動販売機へと歩いた。買うものはいつもと同じ缶コーヒーだ。ガツンとした強さが得意ではないのでブラックは飲まない。ミルクと砂糖によって刺激が緩められたものを好む。平日は大抵7時間睡眠で、昨晩も例... 作り話創作
作り話 瓶に言葉 遥には趣味があった。毎年9月、給料日後の週末にはメッセージカードとボールペンを持って電車に乗り、買い物に出かける。雑貨屋街を歩いて程よいコルク瓶を手に取り、好みの香りのする文香を買うのだ。本音を言うと新しいメッセージカードを買いたいところな... 作り話創作
作り話 砂時計 その子は生まれた時から人の頭上に砂時計が見えた。ただしそれは不完全な砂時計だった。上部はろうとのようになっていて、上から下へと流れた砂は何にも受け止められることなく外へさらさら流れ出るしかない、そんな形をしていた。砂時計の大きさや装飾は人に... 作り話創作
作り話 鍵 〇〇は鍵を拾った。それは不完全で古風な鍵だった。持ち手は三つ葉のクローバーのようで、差し込む部分には突起も何もなく、ただただ細い円柱形をしている。鍵というよりも細い金属の棒にささやかな持ち手がついている、といった方が正確かもしれない。〇〇に... 作り話創作
作り話 仮面 本を読んだ。人は向かい合う人によって少しずつ異なる演技をする。明るく快活な自分、優しく穏やかな自分、ねくらでしらけたな自分など、人はいくつもの仮面をつけたり外したりしながら生活している。そんなことが書かれている本だった。私には気になる人がい... 作り話作曲創作
作り話 浮き沈み 朝起きたら、私は不思議な性質を持った高校生になっていた。その性質とは、心が軽くなったら体が宙に浮かび、心が重くなったら体が地面に沈み込むというものだ。なんだか不便そうな体だなあと思ったが、私はこの性質を抱えたままに高校生までやってきているみ... 作り話作曲創作